ある日、日番谷は市丸と自分における『差』について考えてみた。


霊力はもちろんのこと、地位的にも申し分ない。
部下にも恵まれ、不安はないと思っている。
しかし日番谷は市丸とキスをする時いつも思っていた。
それは身長だった。
2人の身長差が50cm近くあるため、いつも市丸がキスを仕掛ける時は市丸がしゃがむか、日番谷を抱きかかえるかしている。
その時だけでなくとも日番谷は常に自分の身長の低さを恨んでいた。
自分より背が低いと言えば、せいぜい11番隊副隊長くらいで幼馴染みの雛森でさえも自分を見下ろすのだ。
男としては、いつまでも見上げる側では格好悪すぎる。
自分も大人になれば、死覇装を着てもスラッと格好良く見える筈!
そして、何より市丸を驚かせてやろうという悪戯心の思いつきが日番谷の心に芽生えた。




それが、自分に災いをもたらすとも知らず。
















【 大人になりたい! 】















「・・・」



穏やかな雰囲気の中で仕事が行われている十番隊執務室。
その中で日番谷は思い悩んでいた。
毎日十乳飲んだり睡眠時間を十分にとったり運動してみたり、かかさずやってみるが一向にその兆しが見えない。

「・・・」
「どうしたんです?隊長」

不思議そうに首をかしげて見る松本を、日番谷がじっと見ていた。

「・・・なぁ、松本」
「なんですか?」
「何食ったら、そんなにデカくなるんだ?」
「・・・は?」

松本は一瞬、言葉の理解に戸惑った。

「だから、何食ったらそんなにデカくなるか聞いてんだ」
「・・・隊長、市丸隊長に何か言われたんですか?」
「いや?オレが個人的に欲しいから聞いてるだけだ」
「隊長、いくら食べても男の子ですから胸は大きくなりませんよ?」
「誰もそんなこと聞いてねぇっ!!」

松本の言葉に日番谷は赤面しながら叫んだ。

「あら、胸じゃなかったんですか。てっきり、私は胸かと・・」
「バカヤロウ!それくらい、オレだって知ってる!!」
「だったら何が欲しいんです?」
「・・・」

尋ねた途端に黙った日番谷の様子に、松本は一つの答えにたどり着く。

「隊長」
「・・・なんだ」
「身長のことなら心配しなくても伸びますって」
「どこにそんな根拠があるんだよ」

松本の言葉に図星を指された日番谷の眉間には皺が深く刻まれる。
ずっと日課で続けてきた日番谷の努力を目にしてきた松本からすれば、別に急がなくても長い目で見れば伸びると思うのだ。
しかし、早く成果を目にしたい日番谷からすれば、それは大きな問題なのだった。

「大人になる方法ねぇのかよ。・・・誰かに聞きゃわかるか」
「隊長、なんでそんなに大人になりたいんです?」
「内緒。じゃ、そういうコトで出かけてくる」
「ちょっと、隊長!」

情報収集すべく、日番谷は松本の止める声を聞かず瞬歩で執務室を出た。
伸ばした手は日番谷を掴まえることなく空をかき、残された松本は力なくため息を吐く。

「・・・後で騒動にならなきゃいいけど」

松本は日番谷の処理した書類を手にして再び業務に戻った。













行った先は手っ取り早く十二番隊舎。

「涅いるか?」
「日番谷隊長、この度はどのようなご用件でしょうか。マユリ様は生憎、研究室に篭られておりまして10日は出て来られないかと」
「そうか」

隊舎に入るなり応対したのはネムで、日番谷はそれを聞くと肩を落とした。

「私の範囲でよろしければ対応させていただきますが」
「うんとな、『大人になる方法』って何かないか?」
「大人ですか?・・・」
「なかったらいいんだけどさ」
「少々お待ちいただけますか?」
「お、おう」

しばし考えこんだネムは、奥の部屋へと姿を消した。
日番谷は近くの椅子に飛び乗り、足をぷらぷらと前後させて周囲を見渡した。
壁という壁には薬品棚がずらりと並べられており、その中に検体なども数多く置かれていた。

「なんか、前に松本が現世で行ってきたって言う『お化け屋敷』みたいだな〜。相変わらず薄気味悪ぃ」

思わず背筋に悪寒が走りそうな空気が漂う十二番隊舎に他隊が必要以上に近寄らないのもこのためだ。
そんなことを考えていると、奥からネムが何やら黒い小瓶を手にして戻ってきた。

「マユリ様より、この薬がよろしいかと」
「何だ?コレ」
「まだ試作段階のものなのですが、身体能力を一時的に強化・成長させるものです」
「なるほど。オレはその被検体ってわけか」
「申し訳ありません。お聞きしたところコレしかないと言われたもので」
「いや、かまわねぇ。コレのリスクとかってある?」
「はい。内服された後に急激な成長が起こるために身体的苦痛があるかもしれないということと、一時的に霊圧も抑制されるとのことです。持続時間もおよそ半日しかないと思われます」
「ま、それくらいならいいか」
「あと、その効果の感想も伺いたいと申されておりました」
「ああ、わかった。ありがとな」

日番谷は小瓶手に取ると早々に十二番隊舎を後にした。


日番谷は軽い足取りで廊下を歩き、そして誰もいない中庭の隅に腰を下ろした。

「さてっと♪」

少し大きめの死覇装を準備して、懐から例の小瓶を取り出した。
十二番隊舎では真っ黒にしか見えなかった小瓶も日にあたれば普通の茶色い薬瓶に見える。
封を開けてドキドキと胸を高鳴らせて日番谷は、不安を掻き消すように目を瞑り一気に飲み干した。



ゴク・・ゴク・・ゴク・・・



「味は普通にイケるな。匂いも無かった・・・しっ・・」

すっかり空になった薬瓶を見た瞬間、強い頭痛と眩暈、吐き気に襲われた。

「うぇ・・・っくそ、なんだよコレ」

ギシギシと関節が悲鳴をあげ、耐えられず地にひれ伏す。
そして全身が熱で焼け爛れるような激痛に日番谷は多量の脂汗をかきながら指で地を抉り悶えた。
必死に叫びたい衝動を抑え、数十分した頃だろうか、その痛みは治まり荒れる呼吸を少しずつ整えていった。

「もう・・・おさまった・・・か?」

まさか、ここまでキツイ薬とは思わなかった日番谷は、金輪際十二番隊から物を貰うのはやめようと心に誓った。
ようやく落着き、自身の身体を見てみれば何となくいつもと違うように感じた。

「・・・」

『これはもしかして伸びたのか?』と内心で呟き、一度立ってみる。

「・・・」

死覇装は先ほどまで足先が出ていた状態ではなく、足も膝下まで見え腕も幾分長くなっていた。
それを実感するなり自然と顔が緩む。

「の・・・伸びたっ・・・/////」

顔には出ないが、今の日番谷は心中で感涙していた。

そして喜ぶのも束の間、『持続時間もおよそ半日しかないと思われます』と言っていたネムの言葉を思い出し、早々に大きめの死覇装に着替えた。

「羽織と死覇装は風呂敷に入れて・・・っと」

着替え終わった日番谷は着替えを片付けると斬魄刀を腰につけた。

「・・・斬魄刀を腰にかけれる日がくるなんて・・・」

日番谷は事あるごとに感激せずにはいられなかった。













「日番谷は〜んv『愛』に来たで〜vv」
「隊長ならいないわよ」

今日も仕事をサボって十番隊舎に遊びに来た市丸は、『会い』と『愛』をかけて挨拶して入った途端、松本により日番谷の不在を告げられる。

「なんで?」
「さぁ」
「『さぁ』って、それはないんとちゃう?」

仮にも副隊長なのだから、隊長の所在を知っているべきである、というのが市丸の言い分なのだろうが、ここはそんなことが通用しない。

「アンタと一緒で副官泣かせなのよ。思い立ったように急に瞬歩でどっか行っちゃうんだから。行き先も言ってくれないし」
「何か手がかりはないん?」

松本からお茶を受け取りながら市丸は尋ねた。

「手がかりも何も・・・あ。」
「何か思いだした!?」

松本の言葉に市丸は思わず飛びつく。
そして、松本はある方向を指差した。

「来たわよ?」
「えぇ!」

嬉しそうに振り向き両手を広げて抱きしめる準備をする。

しかし、その先にいたのは・・・























カシャン。


「お迎えに上がりました、市丸隊長」


霊圧を消し、気配も消して市丸の後をつけてきた吉良は笑顔で上司を迎える。
そして市丸の広げて伸ばした手はしっかり施錠されており、その姿は今しがた現場を抑えられた犯人のようだった。

「イ・・・イヅル君」
「さあ、帰りますよ。松本さん、ありがとうございました」
「いいえv」

吉良は深ぶかと頭を下げると、市丸の襟首を掴んで執務室を出た。




「イヅルぅ〜・・今日は十番隊長さんに会うてへんから仕事する気あらへん」
「そう言って毎日サボってるでしょ。ほら、行きますよ!」
「イヅルの鬼ぃ〜。昔はもっとボクに従順で素直に騙されてくれてたのに、いつの間にこんなコになってしもたん」
「そうですね、強いて言うなら市丸隊長が原因かと」

シクシクと袖で顔を隠して泣きマネをする市丸に微塵も気にかけることなく三番隊舎へと足を進める。
その先で吉良は見慣れない死神を目にした。

「あれ?隊長」
「なに?」
「あんなコ、十三隊にいましたっけ?」
「?」

吉良の指す方向を見れば、廊下の手すりに腰をかけて外を眺めている死神の少年がいた。
色白で手足がすらっと長く、死覇装の上から見ても華奢な体型をしていることが容易に想像できる。
腰のあたりまであろう銀色の長髪を風になびかせ、小顔に綺麗な翡翠の瞳と薄く淡い唇が印象的だった。

「すごく綺麗な女の子ですね。少なくともウチの隊ではないようですが」
「・・・そやね」

吉良たちの存在に気づいたのか、無表情だった顔の眉間に皺を寄せる。
羽織を着ている市丸を見れば、普通はどこの隊員も頭を下げて挨拶くらいするのだが、この目の前の少年とも少女ともつかない死神は不機嫌な表情で市丸を見た。
その仕草に市丸は一瞬、例の愛しい少年の姿を思い出す。
彼も市丸の存在に気づくなり一気に不機嫌になっていたものだ。
しかし霊圧を感じ取ってみるが、いつもの少年のものではなく市丸は別人と判断する。

「キミ、何番隊のコなん?」
「市丸隊長!?」

本来であれば日番谷以外は特に興味はない市丸であるが、どことなく雰囲気が日番谷に似ていることから聞いてみる。
不機嫌な死神は一瞬驚いたように眼を見開くが、先ほどの不機嫌な表情とはことなり、今度は満面の笑みで言った。

「十番隊です」
「十番隊長さんとこのコか〜。名前なんて言うん?」
「ただの一隊員が市丸隊長に名乗るほどの名ではありませんよ」

声からして少年であることが伺えた。
少年は手すりから降りると、市丸たちに会釈をして『それでは、失礼します』と去って行った。

「・・・なぁ、イヅル」
「なんでしょう」
「日番谷はんが大きなったら、あんな感じやろか」
「確かに雰囲気とか似てましたね。新しく隊員を補充したなんて話は松本さんから聞いてませんが」
「きっと微笑んでくれたら、ボクの日番谷はんもあないな女神さまのような感じなんやろな〜vvあぁ〜、早くこの腕に抱きしめたいv」
「市丸隊長!早く行きますよ!!」

吉良は再び妄想に耽る市丸の襟元を掴んで三番隊舎へと歩き出した。





















「あっぶねぇ〜。バレるかと思ったぜ」

いきなり市丸と吉良に出くわし、内心どうしようかドキドキしていた日番谷だったが、なんとか隊員を装って難を逃れることができた。
しばらくトボトボと道を歩いて行くと、何やらいざこざを起こしている隊員が目に入った。

「・・・ウチの隊じゃねぇな」

自分の隊なら霊圧あげてやれば、姿は違えど自分の隊の隊長だと勘づいて引くだろうが他隊であればそうはいかない。
エリアからして十一番隊のようだが、絡まれているのは四番隊だった。
すぐに四番隊と分かったのも顔見知りだったりするので、日番谷はため息をついて向かって行った。

「四番隊が俺らに逆らおうってのか?あぁ!?」
「ボク、なにもしてないんですけど・・」

絡まれている気弱そうな少年が数名の大男に囲まれている。
今にも殴られそうな、そんな雰囲気を切り裂くような声がかかった。





「そいつを放せ」





声のする方を見やれば、男たちの1人が日番谷の方へやってきた。

「なんだぁ?どこの隊だよ」
「俺らの邪魔するんだから、遊んでくれるよなぁ?」
「『そいつを放せ』と言ってるんだ」

男たちの言葉に耳を貸さず、日番谷は同じことを強調して言った。
日番谷からすれば、できれば喧嘩などはしたくない。
始末書ものにすれば、松本の説教が待っている。

「コイツを放して欲しいなら、俺らの相手をしろって言ってんだよ。可愛いお嬢ちゃん」

そう言って日番谷に近づいた瞬間、男は頬に蹴りを喰らっていた。

「あ。」
「おい!大丈夫かっ!!」

蹴り飛ばされた男のもとへ数人の男たちが駆け寄る。
それを見て日番谷は大きくため息をついた。

「あ〜あ、やっちまった(松本に怒られるな)」

そして、少年を囲っている男たちのもとへ歩み寄った。

「女のくせに・・・」
「オレは『女』じゃねぇ!!」

男の言葉に切れた日番谷は怒りのままに殴りかかった。






―数分後―






男たちは全滅し、日番谷は少年の手当てを受けていた。

「ホントに貴方は強いですね。十一番隊の方をあっという間に倒しちゃうなんて」
「花太郎はいつまで経っても弱いよな。ちっとは鍛錬しろよ」
「え、ボクのこと知ってるんですか?」
「オレだよ、オレ。日番谷」
「え・・・?」

花太郎と呼ばれた少年は日番谷の姿に言葉を失った。

「ええぇえええ!!」
「花、うるさい」

目の前で叫ぶ花太郎に、日番谷は耳を塞いで言った。

「な、なんで?だって日番谷隊長はもっと小さい・・」

ゴッ☆

花太郎は最後まで言うことなく頭を殴られる。

「小さいって言うな」
「テテッ・・ホントに日番谷隊長なんですね。でも、どうして大きくなっちゃったんですか?」

花太郎の疑問に日番谷は、これまでの経緯を話した。

「へぇ〜、でもすごいですね。ボクも十二番で強くなれる薬が欲しいです」
「やめとけって、お前があそこに入ったら最期、帰って来れなくなるぞ?」
「・・・それはイヤです」

涙を流し、身の安全を優先した花太郎は手当てし終えた用具を片付けていった。

「ありがとな、花」
「ボクの方こそ、ありがとうございました」
「これから帰るのか?」
「はい、備品を補充しないといけませんから」
「送ってやる」
「でも・・・」
「また絡まれるかもしれないだろう?」
「じゃあ、お願いします」
「おう!任せろ!」

日番谷は花太郎と横に並び、談話しながら歩いて行った。



















「もう!隊長ったら、何処行ったのよ〜。探しても霊圧消してるし、いつもの溜まり場にもいないし!」

十番隊執務室では、松本が書類を手にキレていた。
そこへ知った気配がやって来た。

「お忙しいところ、失礼します。十二番隊副隊長の涅です」
「・・・どうぞ」

仲が悪いわけではないが、必要以上に関わりを持ったことのないネムの訪問に、松本は対応に困った。

「どうしたの?珍しいわね、アンタが来るなんて」
「はい、日番谷隊長はいらっしゃいますか?」
「隊長なら、昼前からずっといないけど」
「マユリ様から日番谷隊長にコレに書いて欲しいとのことでお渡ししていただきたいのですが」

差し出された一枚の紙を手にとると、松本はその内容を見て額に青筋を立てた顔を上げた。

「・・・ウチの隊長、そちらで薬をもらったのね?」
「はい。おそらく今の日番谷隊長は普通の隊員とかわらないかと」
「わかったわ。ありがとう」

『探しても見つからない筈だわ』と、内心で呟く松本は、ネムから貰った紙を日番谷の机上に置いて部屋を出た。














四番隊舎についた花太郎と日番谷は入り口で別れを告げた。

「ありがとうございました」
「今度から気をつけろよ?今度、オレが稽古つけてやろうか?」
「ボクと日番谷隊長じゃ、元が違いすぎますよ」
「そんなことねぇよ。大丈夫、ちゃんと教えてやるから」
「・・手加減してくださいね」
「おう!じゃな」
「お気をつけて」

花太郎が頭を下げて挨拶すると、日番谷は背を向けて歩き出した。
そして、四番隊舎から少し離れた頃だろうか。
知った霊圧が再び日番谷の前に姿を現した。
























「こぉ〜んにぃ〜ちわv」












市丸だ。
後ろに吉良がいないとなると、またサボったのだろう。
日番谷は眉間に皺が寄りそうになるのを抑え、作り笑顔で対応した。

「こんにちは、市丸隊長。吉良副隊長はご一緒ではないのですか?」
「ん〜、イヅルは仕事中ねんv」

ニコニコと微笑みながら近づいてくる市丸に、日番谷は笑顔を向けながら一歩ずつ下がる。
すると、一瞬にして背後から抱きしめられる感覚に市丸が瞬歩で動いたことがわかった。

「つかまえたぁ〜vv」
「市丸隊長、お遊びが過ぎますよ」
「ええねん、ええねん」

日番谷は笑顔を向けながらも必死に己の拳を抑える。
そんな日番谷を余所に、市丸は日番谷の怪我を見つけた。

「怪我したん?」
「ただの掠り傷・・・」

『です』と続けようとした途端に、濡れる音が耳についた。

「舐めないでもらえますか」
「ええやんv今更やし」
「『今更』・・・?」

「だって、そやろ?」

市丸の言葉に日番谷が気が付く。




「ボクは幸せやわvキミに微笑んでもらえる日がくるなんて〜vvなぁ、日番谷はん」
「てめぇ、気づいてやがったな」
「キミへの愛が気づかせてくれたんよ〜vv」
「離しやがれ!この変態狐っ!!」




バレてキレる日番谷だが、市丸がしっかり押さえ込んでいるため殴れない。

「日番谷はんは、大きくなっても美人やねぇ〜vv将来が楽しみやわ///」
「なに、照れてんだよっ」
「なぁなぁ、何で大きなってんの?」
「そうだよ、格好良くなったオレの姿を見せてやろうと・・ちょっと退け」

そう言って、市丸を引き剥がすと腰に手を当てて、いつものようにふんぞり返った態度で仁王立ちする。

「どうだ。オレだって大人になればカッコイイだろ、男らしいだろ!周りの奴に『可愛い』なんて言わせねぇぞ!」
「・・・」
「なんか感想ねぇのかよ」

日番谷の言葉に市丸はどう答えていいやら迷った。
確かに日番谷は成長すれば、すらっとしてある意味『カッコイイ』のかもしれない。
しかし市丸からすれば、努力そのものが『可愛い』のであって、日番谷の求める男らしさには微塵も繋がってないのである。
『むしろ、美少年?』なんて言ったら蹴りが飛ぶんだろうなと、市丸は内心で思いを巡らせた。

「うん、カッコエエよ」
「そうかそうか」

市丸の感想に日番谷はご満悦のようだった。

「なぁ、日番谷はん」
「なんだよ」
「他に何か企んどる?」
「・・・」

何気ない市丸の疑問に日番谷はいきなり黙りこくった。
言えない。
日番谷からすれば言えるわけがなかった。

「なぁ、日番谷はん?」

俯く日番谷に、市丸も顔を近づけるようにして尋ねる。

「・・・」

日番谷は意を決したように、市丸の方へと近づく。








「こうするためだよっ」







日番谷は背伸びして、市丸の襟元を両手で引っ張り頭が少し下がったところで互いの唇を重ねた。



ちゅ。






「・・・」






一瞬の出来事に市丸の思考が停止する。
恥ずかしさのあまり、すぐに離れた唇は、市丸の力強い腕に抱きしめられて再び重なった。

「・・・っん・・」

今度は深く息が荒くなるほどの熱い口づけに、日番谷は力の入らない身を市丸に預ける。
ようやく離れた唇からは熱い吐息が漏れ、日番谷の頬は紅潮し眼も潤んでいた。

「い・・っちまる・・・てめぇ・・・」
「日番谷はんが、あまりにも可愛ええコトしてくれるから、ボク抑えが効かんわ・・・どうしよ」

市丸は日番谷の首の顔を埋め、抱きしめる。
今すぐにも殴りたい衝動に駆られる日番谷だが腕が上がらなかった。

「・・・バカ」

まだ身長差はあるものの、日番谷は縮まった市丸との距離に胸の高鳴りを感じていたのだった。



























「ほ〜んと、バカップル」
「いいな〜、ボクも雛森君とあんな風になりたいです」



遠くの部屋で松本と吉良はお茶を飲みながら2人の一部始終を見ていた。

「隊長も成長すると変るものね〜」
「ホントです。最初見た時は、すごく綺麗な女の子にしか見えなかったです」
「吉良・・・それ本人の前で言ったら蹴り飛ばされるわよ?確か先刻、十一番隊が数人顔に足型残して気絶してたって報告あったから、多分隊長でしょうね」
「・・・肝に銘じときます」

お茶菓子を口に放り込みながら話す松本に吉良は『本人に言わなくてよかった』と心底思った。

「恋する男の子が綺麗になるなんて聞いたことないけど、・・・でもイイ男よね〜。将来が楽しみだわv」
「松本さん、日番谷隊長のこと好きなんですか?」
「あらv『愛』を感じるほど大好きよ?イイ男になるって分かったらギンから奪うのもアリよねぇ〜vv」

『ひぃいいいっ!!市丸隊長!松本さんが怖いです!!』と、松本の悪魔のような笑みに吉良は内心叫ばずにはいられなかった。

「まぁ、帰ってきたら始末書と残りの書類を片付けてもらいますから覚悟しててくださいね」

2人の幸せそうな様子を見ながら、松本は1人呟いた。







そして日番谷が元の姿に戻って隊舎に現れたのは夕方だった。
いつもより少し嬉しそうな表情の日番谷に松本も微笑む。

「さぁ、隊長!今日は残業覚悟で仕事してくださいよ!」
「・・・やけに張り切ってるな」
「そんなことないですよv」

不気味な程いつもよりやる気の松本に押されながら日番谷は仕事を消化していく。



松本が日番谷を襲う日は案外近いかもしれない。


それも数時間後かもしれない。


日番谷冬獅郎危機一髪!市丸は幼馴染みの魔の手から日番谷を救えるか!


それは誰も知らない。




―fin―



05/04/06 sakuya様よりいただきました。